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昆虫食の安全管理 その3

※お詫び 2012.5.27
記事内に誤りがありましたので、該当部分を訂正いたしました。
「私が観測した昆虫アレルギーの発症率1/2000(0.05%)は、甲殻類アレルギーの発症率0.28~0.56%とほぼ一致する」という旨の記述がありましたが、発症率の部分で一桁間違っていました。
数字を扱う身として恥ずかしく思うとともに、お詫び申し上げます。



今回も昆虫アレルギーについて考察を深めていきます。

前回、私が観測した範囲内での昆虫アレルギーの発症率は約1/2000(0.05%)であるということをお話しました。
この数値の評価のため、まず一般的な食物アレルギー(特に甲殻類アレルギー)との比較を行いたいと思います。

厚生労働科学研究事業 「食物アレルギー診療の手引き2011」には、以下のような記述があります。

わが国における食物アレルギー有病率調査は諸家の報告により、乳児が約10%、3歳児が約5%、保育所児が5.1%、学童以降が1.3-2.6%程度と考えられ、全年齢を通して、わが国では推定1-2%程度の有病率であると考えられる。欧米では、フランスで3-5%、アメリカで3.5-4%、3歳の6%に既往があるとする報告がある。


食物アレルギーは低年齢児に多く見られ、その後加齢とともに発症件数は減少していく傾向にあるようです。

低年齢児では鶏卵、牛乳、小麦に対するアレルギーを多く発症しますが、加齢と共に耐性を獲得していきます。

私が観測した昆虫食に被験者はすべて7歳以上に当てはまるので、昆虫食アレルギーの発症率は、学童以降の食物アレルギー発症率1.3-2.6%と比較をしていきます。

同じ資料中に、食物アレルギーの発症源食物の内訳が記載されています。

調査対象は、「食物摂食後60分以内に何らかの症状が出現し、かつ医療機関を受診した患者」となっています。

この内訳は年齢によって大きく異なっていることに注意してください。

<全年齢>
図1

<7~19歳>
図2

<20歳~>
図3

ここから、新規食物アレルギーの発症の原因食物は、7~19歳、20歳~ともに甲殻類が第2位となっていることがわかります。

その割合は、7~19歳では17.1%、20歳~では22.2%となっています。

さらに、政府の人口統計を利用して、7歳以上のすべての人における新規アレルギー発症の原因食物のうち甲殻類が占める割合を計算すると、21.5%となります。

以上より、7歳以上で、甲殻類アレルギーを持っている確率は、次のように計算できます。

食物アレルギーの発症率(1.3~2.6%)×原因食物が甲殻類である確率(21.5%)=0.28~0.56%

おお!私が観測した昆虫アレルギーの発症率とほぼ一致しました!
(私の方のデータはすっごく怪しいですが…)


本当に怪しいですが、昆虫アレルギーの発症率(保有率)は、他の食品と同等と言っていいのではないでしょうか。


私が観測した昆虫アレルギーの発症率は、甲殻類アレルギーの発症率を下回りました。

以上から、昆虫は、一般的な食品と比べて、特別にアレルギーを発症しやすいわけではない、ということが言えるのではないでしょうか。

もちろん、私がすべての昆虫料理試食者を追跡できたわけではないので、数値への信頼性は低いです。ご参考程度ということでご理解ください。



もう一つ、参考にしたいデータがあります。

Food Insects Newsletter, July 1995 Edition の記事です。

この記事では、昆虫に対するアレルギーの保有率を調査している実験を紹介しています。

7種の昆虫(リストは文末)から得られた透析抽出物(何のことか不明)を被験者の皮膚に塗布し、アレルギー反応を観察するという実験です。

Bernton and Brown (1967)は、昆虫の透析抽出物を利用して、既知のアレルギーを持つ被験者、持たない被験者に対してアレルギーのパッチテストを行った。その結果、

・既知のアレルギーを持つ被験者230名中、68名(29.6%)にアレルギーの陽性反応が検出された。
・既知のアレルギーを持たない被験者194名中、50名(25.8%)に陽性反応が検出された。

(合計333個の陽性反応が検出された。全テストは(230+194)×7=2968個。つまり、11%のパッチテストで陽性反応が出た。)

以上から、一般人の25%は昆虫に対して何らかのアレルギーを持つ可能性が示唆された


この調査では、非常に多くの人々にアレルギー反応が出ています。

その要因として次の2つが疑わしいと、私は考えています。

 ・昆虫抽出物が非加熱であるため、アレルゲンの活性が高かった。
 ・消化液によるアレルゲンの分解を経ていなかった。

このデータは、生で昆虫を食べた場合にアレルギー反応を発症する可能性を示唆するものとなるかもしれません。

ただし、加熱によってアレルゲンを完全に失活させることはできないようです。

同文献に以下のような記述があります。

先述の7種の昆虫抽出物を100℃で1時間加熱したところ、5種の昆虫でアレルギーの陽性反応が検出された。

ただし、そのアレルギー強度は非加熱時に比べて弱くなっていた。

また、別の実験でゴキブリの透析抽出物を使用して、同様のパッチテストを行った結果、ゴキブリの持つアレルゲンには耐熱性があることが示された。


この傾向は昆虫に特異的なものであるかはわかりませんが、加熱だけでは昆虫アレルギーは防ぐことができないことを示唆するデータとなっています。



<まとめ>

どんな食物に対しても、初めて食べるものに対してはアレルギー発症のリスクが存在する。

昆虫は特別にアレルギーを起こしやすい食物ではない。現時点では、一般食物並みといえる。

また、加熱処理によって100%ではないが、アレルギー発症のリスクを多少軽減することができる。

心配な人は、食べる前に皮膚テストを行うことが好ましい。


<パッチテストに使用した昆虫7種のリスト>
(アレルギー反応がpositiveな順)
 1. ニシメマダラメイガ Indianmeal moth, Plodia in terpunctella
 2. コクヌストモドキ幼虫 red flour beetle larvae, Tribolium castaneum 
 3. コクヌストモドキ成虫 red flour beetle adults, Tribolium castaneum 
 4. ココクゾウムシ rice weevil, Sitophilus oryzae 
 5. キイロショウジョウバエ fruit fly, Drosophila melanogaster 
 6. ヒラタコクヌストモドキ confused flour beetle, Tribolium confusum 
 7. ノコギリヒラタムシ sawtoothed grain beetle, Oryzaephilus surinamensis 
 8. コナナガシンクイムシ lesser grain borer, Rhyzopertha dominica 

<三橋亮太>
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テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

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