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地誌学は昆虫食文化の実態を照らす学問である

 地誌学は未知の世界に対する人間の好奇心と知識欲を満足させることに貢献してきた。その一方で、国民教育や国家の発展にも寄与してきた。ヘットナーに代表される地誌学は、地域のことは何でも書く手法を用いていた。しかし、地域の個性に関する記述をいくらしても地域を科学的に理解することにはつながらず、科学的な学問ではないという批判があった。それが、20世紀後半に計量地理学が台頭した契機である。
 その後、人文地理学や自然地理学に代表するような系統地理学が台頭する。地誌学に関する見解は研究者の間でも相違がかなり見られた(中山 1996)。現在では、社会科の教員免許状申請の必修科目として地誌学の名前が残っているが、その定義について答えられる学生は少ないだろう。
 まず、地誌学の話に入る前に地理学の定義について確認しておきたい。地理学とは、「地理的条件の生成のメカニズム、そして地理的条件の間の関係について分析し、地球上の多様な現象を説明するとともに、一般的な原理を導き出すことを目的とする。」ものである(矢ケ崎ら 2007)。地理学の分析としては、分布、伝播、変化等が代表的だ。この対象を自らが関心を持つ人文的、社会的、自然的な諸要素に注目して、それ自体、もしくは組み合わせで生じる現象を解明して説明しようとする。地域には、地形、気候、土壌、植生、天然資源などの自然的な条件と、文化・伝統、政治、経済、社会、経済等の人文的な条件が無数に地域にあるので、未だ解明されていない要素の組み合わせが明らかになった時、地理学研究者としての嬉しさを感じる。
 未だ研究されていない地域を調査するための一番適切な方法は誰にもわからない。過去の文献を参照しても、その地域にしかない現象がある存在しない可能性というのは誰にも否定できないのだ。したがって、自然・社会・人文的諸要素をできるだけ多くのデータを集める必要があり、それを体系的に説明するストーリーを作る必要があるのだ。
 さて、ここで地誌学の話である。地誌学とは、「地理的条件の複合性を構造的に把握して、地域現象を説明し、地域性を明らかにする」ことである(矢ケ崎ら 2007)。ゆえに、当該地域における諸現象をできるだけ幅広く記録することが重要である。地誌学には主なものとして、以下の7つの分野がる(矢ケ崎ら 2007)。
(1)身近な地域の地誌→現地における地域調査によって地域の特徴や問題を明らかにする。
(2)歴史地誌→歴史の時間軸に沿って地域の景観、生活文化等の変化を明らかにする。
(3)グローバル地誌→世界の構造を明らかにする(国家の結びつき、グローバルの中の日本)。
(4)比較交流地誌→地域間の交流を明らかにする。
(5)テーマ重視地誌→国単位の地誌を描く。
(6)網羅累積地誌→地域の百科全書(地理的条件を網羅羅列的に記述)
(7)広域動体地誌→広域な地域の特徴を動態的に把握する。
 昨年、私は群馬県吾妻郡中之条町の寺社原集落でイナゴの地域振興について調査していた。初めは、行政とイナゴ捕り大会参加者を中心としたイナゴのグリーン・ツーリズムの生成のメカニズムに関心があった。しかし、フィールド調査によって地誌学的な視点が入ることにより、寺社原集落の地形、自然資源、伝統文化、道路行政、集落の人びとの暮らしに目が行くようになり、イナゴ研究から寺社原集落の地域の特徴の理解が何歩も進んだ。自然・人文にとらわれない発想でイナゴ捕りを見ていくと、自分独自の地域研究が出来上がる。今考えると、私の研究は(7)の動態地誌的な性格を有していたと考えられる。
 私は、地誌学は要素と要素の結びつきの未知の現象を見つけ出すための総合地理学であり、昆虫食文化研究に有効であると考えている。

中山修一 1996. 地誌学と地域研究の在り方に関する日本的解釈の展開. 地誌研年報 5 :77-92.
矢ケ崎典隆・加賀美雅弘・古田悦造 2007. 『地理学概論』朝倉書店.

末永雅洋
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