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FAOの昆虫食報告書”Edible insects Future prospects for food and feed security”の要約(日本語)

こんにちは。食用昆虫科学研究会の吉田です。

最近話題になっていますFAOが出した食用昆虫についての報告書ですが、さまざまな報道機関が記事を出していますね。
ただ、その原文については、英語ということもあり、読んだ人が少ないのではないでしょうか。

→→FAOの原文ページはこちら

と、いうわけで、報告書の要約をざっと日本語に訳しました。以下が冒頭の日本語訳になります。

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FAO報告書 summary 日本語訳

この日本語訳はFAO報告書"Edible insects Future prospects for food and feed security" の巻頭 ⅹⅲ~ⅹⅵページの"Executive summary" を訳したものです。

要旨
この本は昆虫の食用および飼料としての可能性を評価し、食用昆虫に関する既存の情報や研究をまとめたものです。様々な情報源や世界中の専門家による最新かつ十分なデータに基づいて評価を行なっています。
食料源や飼料源としての昆虫が注目を浴びているのは、動物性タンパク質のコストの上昇、フードセキュリティ、環境圧、人口の増加と中間所得層のタンパク質需要の増加などの21世紀の問題と特に関連があります。上記のような問題から、従来の家畜や飼料源の代わりを見つけることが急がれています。それゆえ昆虫を消費する、すなわち"entomophagy(昆虫食)"が、地球環境と健康、そして生活に対して有益に貢献するのです。
この報告書は、2003年にFAOの森林部門による小さなレポートから始まりました。そのレポートは中央アフリカでの伝統的な暮らしの中での昆虫の役割を記述し、自然環境で昆虫を収穫することが森林の持続可能性に与える影響を評価することを目標にしていました。この取り組みが、昆虫は世界の食料安全保障をのプラスとなる可能性を明らかにするために、様々な視点から昆虫採集や養殖について検証する取り組みへと発展していきました。この本の目的は、昆虫を食料や飼料として用いる多くの機会と制約について、世界に先駆けてまとめることにあります。

 昆虫の役割
昆虫は少なくとも20億人の伝統食の一部であると推測されています。1900種以上の昆虫が食料として扱われていると報告されています。昆虫は生態系サービスの主体であり、人類の生存に必要なものです。また、昆虫は作物生産のうち、受粉という重要な役割を担っており、廃棄物の再利用を通じて土壌の栄養状態を改善する、有害病種の自然由来の調節者としても重要な役割を担っています。そして昆虫は、蜂蜜や絹、蛆虫療法といった医療法などの、様々な価値を人類に提供しています。さらに昆虫は人間の文化の中にも受け入れられており、コレクションや装飾品、映画や絵画、文学にも見られます。世界的に最も普遍的に消費されている昆虫としては甲虫(甲虫目Coleoptera 31%)、芋虫(鱗翅目Lepidoptera 18%)、蜂や蟻(ハチ目Hymenoptera 14%)が挙げられます。続いてバッタ、イナゴ、コオロギ(直翅目Orthoptera 13%)、セミ、ヨコバイ、ウンカ、カイガラムシ、カメムシ(カメムシ目Hemiptera 10%)シロアリ(等翅類Isoptera 3%)、トンボ(蜻蛉目Odonata 3%)、ハエ(ハエ目Diptera 2%)そして、その他の目の昆虫が食べられています。

 文化
昆虫食は文化的、宗教的慣習に強く影響を受けており、昆虫は世界の多くの地域で食用源としてよく消費されています。しかしながら、西洋のほとんどの国では、人々は昆虫食を軽蔑し、昆虫食を原始的な(野蛮?)行為と見ています。この姿勢が農業研究における昆虫の無視・軽視につながってきました。食料としての歴史上には昆虫の使用への記述があったにも関わらず、昆虫食はかなり最近になってやっと世界中の注目を集め始めました。

 自然界の資源としての昆虫
食用昆虫は、水域から農地、森林に至るまで多種多様な環境下に生息しています。最近まで。昆虫は自然界から収穫できる無限にある資源と見られてきました。しかし、いくつかの食用昆虫は現在、絶滅の危機にあります。採り過ぎ、汚染、野火、生息地域の破壊などのたくさんの人的要因から多くの食用昆虫の生息数は減少してきました。気候変動は食用昆虫の分布と安定供給に影響するようですが、どうして影響するかはまだそれほど知られていません。この報告書は、昆虫種やその住処となる植物を守るために地域住民にが行う保全戦略や半栽培の実践について、いくつかの地域での事例研究を記載しています。このような取り組みは昆虫の生息環境の保全状況改善に貢献するでしょう。

 環境による機会
昆虫を食料や飼料として育てることの環境的な利点として、昆虫の飼料変換効率の高さが指摘されています。例えば、コオロギは1㎏重量が増えるために、たった2㎏しか要しません。さらに、昆虫は人間や動物の廃棄物を含む、副産物的な有機物でも育てる事ができ、環境汚染の削減に貢献することもできます。昆虫は牛や豚に比べ少量の温室効果ガスやアンモニアしか排出せず、牛の飼育に比べてはるかに小さい土地と少量の水しか必要としません。また、さらなる調査を必要としますが、哺乳類や鳥類に比べて昆虫は、人間や家畜、野生動物への人畜共通感染症へのリスクも小さいかもしれません。
 
 人間が消費する上での栄養
昆虫は高脂肪、高タンパク、ビタミン、食物繊維やミネラルに富んだ、高栄養かつ健康的な食糧源です。昆虫の種の多さから、食用昆虫の栄養価はかなりばらつきがあります。同じ目や科の昆虫でさえ、変態の段階、生息環境や食料などによって栄養価が異なることもありえます。例として、ミールワームに含まれるオメガ-3-酸と6種の脂肪酸は、魚類に匹敵し(牛や豚よりも多く)、そしてタンパク質、ビタミンやミネラル含量は魚類や肉類と同程度です。

 養殖システム
ほとんどの食用昆虫は野生で捕獲されます。しかし、ハチや蚕といった数種の昆虫はその生産物の価値から、家畜化の長い歴史をもっています。また昆虫は生物農薬(天敵や寄生虫として)や健康(蛆虫療法など)、そして受粉という目的のために大量に飼育されています。しかし、食料として昆虫を飼育するという概念は比較的新しいです。熱帯地方における人間の消費としての昆虫の飼育の例としては、ラオス、タイ、ベトナムにおけるコオロギ養殖が挙げられます。
温暖な地域において昆虫養殖は、ミールワームやコオロギ、バッタをペットや動物園用に大量に養殖する家族経営の会社が大きな役割を果たしています。こうした会社の中には、最近になって食料や飼料として昆虫養殖を商業化できたものもあり、人間が直接消費するための生産はまだまだごく少量です。
小数の工業規模(大規模)な企業は、アメリカミズアブなどの昆虫を大量に飼育するスタートアップの様々な段階にあります。そうした昆虫の大部分はそのまま食されるか飼料として加工されます。養殖が成功するために大切なこととして、養殖される昆虫についての生態学や養殖環境のコントロール、そして配合飼料に関する調査があります。現在の生産システムは高価であり、多くの資金を要します。そうした産業規模の養殖の挑戦の代表的なものとして、伝統的な家畜や養殖資源から、食肉(もしくは大豆のような肉代替物)生産と経済的に競合するような植物をつくるための自動栽培工程の開発があります。

 動物の飼料としての昆虫
近年の魚肉と大豆に対する高い需要と価格高騰の結果、水産物の生産増加と相まって、水産養殖や家禽のために昆虫のタンパク質を開発へ向けて新たな研究が行われています。昆虫を基本とする飼料生産物は、現在水産養殖や家畜生産の配合飼料のうち大部分を占めている魚肉や大豆と同じような市場規模へと成り得ます。昆虫を基本とする飼料は魚肉や大豆を基本とする配合飼料に匹敵することは現在までの情報からわかっています。生きているもの、そうでないものであれ昆虫は、主にペットや動物園に飼料としてニッチな市場を形作っています。

 加工
昆虫はよく丸ごと食されますが、粉末状やペースト状にも加工できます。タンパク質や脂質、キチンやミネラルを抽出することも可能です。現在のところ、そうした抽出工程はコストが高すぎるため、食品や飼料業界で産業利用できるように、利益を出し、適合させるには、さらに発展させる必要があるでしょう。

 食品の安全と保存
昆虫とその製品の加工と保存は、食品の安全を担保するために、他の伝統的な食品や飼料と同じくらい、健康および公衆衛生の規則に則っているべきです。生物学的な成り立ちから、微生物の安全、毒素、美味しさ、そして無機物質の存在といったいくつかの項目を考慮されなけらばなりません。また肥やしや食肉解体場での廃棄物といった廃棄品からの生産物で昆虫が飼育された時には、特に健康への影響は考慮しなければなりません。昆虫の摂取によってアレルギー症状が出るという証拠はほとんどありませんが、あることには間違いありません。節足動物へのアレルギー反応はいくつか報告されています。

 家畜としての改善
家事レベルであれ、企業レベルであれ、小家畜としての昆虫の採集や飼育は、開発途上国、先進国双方の人々の重要な生活基盤となります。開発途上国では、都市、地方において女性や土地を持たない住民といった社会の最貧層の人々の中でも簡単に昆虫の採集、養殖、加工、販売に関わることができる人もいます。これらの活動は直接的に彼女らの食生活を改善するだけでなく、屋台で余った昆虫を売ることによって現金収入を得ることもできるようになります。昆虫は直接的にそして容易に、自然から集めたり、最低限の技術と支出(基本的な養殖装置)で養殖したりできます。また、昆虫がすでに地元の食文化の一部となっているときには、昆虫の飼育は最小限の土地と市場への参入努力しか要しません。
タンパク質や他の栄養素の欠如は社会的に脆弱な層の中で、社会的対立や自然災害の際に典型的に広がります。昆虫の栄養価、入手の用意さ、単純な飼育技術、そして早い成長速度から、昆虫は、緊急の食料供給、社会的に脆弱な人々の生活基盤や伝統的な食事の改善などによって、栄養不足を克服する状況を安価かつ効率的に作り出せます。

 経済成長
昆虫の採集および養殖は、家庭内労働レベルであれ、大きな、産業規模な操業であれ、雇用と所得を産みます。南部および中央アフリカや東南アジアの開発途上国では食用昆虫への需要があり、市場へと昆虫を持ち込みやすく、昆虫を採集、養殖、加工して屋台で売ったり、鶏肉や鮮魚の飼料とすることは小規模の企業にとって容易に実現できます。ごく小数の例外を除いて、昆虫の国際取引はほとんどありません。先進国に対して行われる取引はしばしば、コミュニティーの移民による需要に由来したり、異文化の食品を売るニッチな市場の発展によるものです。国境での貿易は盛んで、主に東南アジアや中央アフリカで行われています。

 コミュニケーション
昆虫食の慣習を取り巻く賛成・反対といった見方は必ず、様々な利害関係者個々による、緻密なコミュニケーションによる歩み寄りを要します。昆虫食が十分に確立している熱帯では、食の西洋化の拡大に対抗するために、有望な栄養源としての食用昆虫をメディア・コミュニケーションの方針として推奨していくべきです。西洋社会では、不快な要因に対処する、メディアを通じた緻密なコミュニケーションと教育的なプログラムが必要です。昆虫が持つ食料および飼料源としての可能性について価値のある情報を提供して、食料や飼料部門の政策決定者や投資家と同様に広く一般にも訴えかけることにより、昆虫は政治的に、世界的な投資や調査の項目として認知されるかもしれません。

 法律制定
食品と飼料流通を統治する規則の枠組みはここ20年で途方もなく大きく拡大してきました。しかし、食品や飼料として昆虫を定める規制はまだほとんどありません。先進国では昆虫を食品や飼料として使うことへの明確な規則や言及が欠如しており、食品・飼料業界へ昆虫を供給するための養殖が産業的な発展するのを妨げる大きな要因となっています。開発途上国では昆虫を人間の食料および動物の飼料として用いることが実際のところ規則されているよりも広く認められています。飼料業界はより昆虫を含む基準を推し進めてリードしていくようですが、食品業界では食品として昆虫を用いることへのルールと基準を作るための先進的な法律として、「目新しい食品」という概念が出てきつつあるようです。

 将来の展望
食料安全保障に対して昆虫が貢献しうる大きな可能性を広める取り組みには、次の大きく4つのボトルネック・挑戦が一緒に述べられることが必要です。第一に、もっと効率的に昆虫を健康食品として推奨するために、昆虫の栄養価についての更なる記述が必要です。第二に、環境をより破壊しているかもしれない伝統的な農業や家畜の飼育慣行と比較できるように、昆虫の収穫や養殖が環境に与える影響について調査されなければなりません。第三に、昆虫の採集および養殖がもたらす、社会経済への利点を明らかにし、増加させていくことも必要です、特に貧困な社会の食料安全保障に貢献するために求められています。最後に、より多くの投資を呼び込む道を整備し、(家庭内程度から産業規模まで)食料や飼料源として昆虫の生産の全ての発展と国際取引へとつなげるために、国レベル(もしくは国を跨いだレベル)での明確でわかりやすい法体系を構築する必要があります。

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日本語訳終わり


実はFAOは2008年にも報告書を出しています。5月に出された報告書は5年ぶり、ということになります。
5年前の報告書が見たい方はこちら(PDFにつき注意)

前回は各地の事例を集めたという体裁(国際フォーラムの要旨集のような形)だったのですが、今回は地域ごとでなく、各トピックごとにまとめられています。特に新しく追加された情報としては「(食用昆虫を普及させるための)コミュニケーション」「食用昆虫を取り巻く法律の有無」があります。

読む際の注意点として、「ポジティブな情報を詰め込んだ報告書」であることが挙げられます。それぞれのデータを見ると食用昆虫は良さそうに見えるかもしれませんが、算出方法や比較する昆虫によって評価が異なってくることは十分考えられます(昆虫は種類が多いですので・・・・・)


「昆虫食が世界を救う?」かは知りませんが、「世界の役に立つ可能性がある」ことを示していることは事実だと思います。


*食用昆虫の写真と特に見たい方は報告書の81ページからを参照することをおすすめします。

<吉田誠>
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テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

地誌学は昆虫食文化の実態を照らす学問である

 地誌学は未知の世界に対する人間の好奇心と知識欲を満足させることに貢献してきた。その一方で、国民教育や国家の発展にも寄与してきた。ヘットナーに代表される地誌学は、地域のことは何でも書く手法を用いていた。しかし、地域の個性に関する記述をいくらしても地域を科学的に理解することにはつながらず、科学的な学問ではないという批判があった。それが、20世紀後半に計量地理学が台頭した契機である。
 その後、人文地理学や自然地理学に代表するような系統地理学が台頭する。地誌学に関する見解は研究者の間でも相違がかなり見られた(中山 1996)。現在では、社会科の教員免許状申請の必修科目として地誌学の名前が残っているが、その定義について答えられる学生は少ないだろう。
 まず、地誌学の話に入る前に地理学の定義について確認しておきたい。地理学とは、「地理的条件の生成のメカニズム、そして地理的条件の間の関係について分析し、地球上の多様な現象を説明するとともに、一般的な原理を導き出すことを目的とする。」ものである(矢ケ崎ら 2007)。地理学の分析としては、分布、伝播、変化等が代表的だ。この対象を自らが関心を持つ人文的、社会的、自然的な諸要素に注目して、それ自体、もしくは組み合わせで生じる現象を解明して説明しようとする。地域には、地形、気候、土壌、植生、天然資源などの自然的な条件と、文化・伝統、政治、経済、社会、経済等の人文的な条件が無数に地域にあるので、未だ解明されていない要素の組み合わせが明らかになった時、地理学研究者としての嬉しさを感じる。
 未だ研究されていない地域を調査するための一番適切な方法は誰にもわからない。過去の文献を参照しても、その地域にしかない現象がある存在しない可能性というのは誰にも否定できないのだ。したがって、自然・社会・人文的諸要素をできるだけ多くのデータを集める必要があり、それを体系的に説明するストーリーを作る必要があるのだ。
 さて、ここで地誌学の話である。地誌学とは、「地理的条件の複合性を構造的に把握して、地域現象を説明し、地域性を明らかにする」ことである(矢ケ崎ら 2007)。ゆえに、当該地域における諸現象をできるだけ幅広く記録することが重要である。地誌学には主なものとして、以下の7つの分野がる(矢ケ崎ら 2007)。
(1)身近な地域の地誌→現地における地域調査によって地域の特徴や問題を明らかにする。
(2)歴史地誌→歴史の時間軸に沿って地域の景観、生活文化等の変化を明らかにする。
(3)グローバル地誌→世界の構造を明らかにする(国家の結びつき、グローバルの中の日本)。
(4)比較交流地誌→地域間の交流を明らかにする。
(5)テーマ重視地誌→国単位の地誌を描く。
(6)網羅累積地誌→地域の百科全書(地理的条件を網羅羅列的に記述)
(7)広域動体地誌→広域な地域の特徴を動態的に把握する。
 昨年、私は群馬県吾妻郡中之条町の寺社原集落でイナゴの地域振興について調査していた。初めは、行政とイナゴ捕り大会参加者を中心としたイナゴのグリーン・ツーリズムの生成のメカニズムに関心があった。しかし、フィールド調査によって地誌学的な視点が入ることにより、寺社原集落の地形、自然資源、伝統文化、道路行政、集落の人びとの暮らしに目が行くようになり、イナゴ研究から寺社原集落の地域の特徴の理解が何歩も進んだ。自然・人文にとらわれない発想でイナゴ捕りを見ていくと、自分独自の地域研究が出来上がる。今考えると、私の研究は(7)の動態地誌的な性格を有していたと考えられる。
 私は、地誌学は要素と要素の結びつきの未知の現象を見つけ出すための総合地理学であり、昆虫食文化研究に有効であると考えている。

中山修一 1996. 地誌学と地域研究の在り方に関する日本的解釈の展開. 地誌研年報 5 :77-92.
矢ケ崎典隆・加賀美雅弘・古田悦造 2007. 『地理学概論』朝倉書店.

末永雅洋

昆虫食はエコなのか?

オランダのワーヘニンゲン大学(Wageningen University)の昆虫学研究室では、昆虫食研究がとても盛んに行われている。
ワーニンゲン大学
建物がかっこいい。(http://www.ent.wur.nl/UK/contact/

ウォール・ストリート・ジャーナルの記事にその力の入り具合を示す次のような記述があった。

We continue to make progress in the Netherlands, where the ministry of agriculture is funding a new $1.3 million research program to develop ways to raise edible insects on food waste, such as brewers' grain (a byproduct of beer brewing), soyhulls (the skin of the soybean) and apple pomace (the pulpy remains after the juice has been pressed out).

なんとこの研究室は、食品廃棄物処理のための食用昆虫の研究という名目で、オランダの農業省から130万ドル(1.04億円)もの助成金を獲得しているのだ!すごい!!



この研究室では、昆虫は牛や豚を生産するよりも温室効果ガスの発生量が少なく、非常にエコな食料である、ということを様々な場所で主張している。

オランダで「昆虫料理本」出版、人口増加に備えたタンパク質源に ロイター

昆虫の生産過程で排出される温室効果ガスの量は、豚を飼育する過程と比べて100倍少なくなるとしている。


The Six-Legged Meat of the Future, The Wall Street Journal

Insects also produce far less ammonia and other greenhouse gases per pound of body weight.
(昆虫はほかの家畜と比べて、体重あたりに排出するアンモニアと温室効果ガスの量が非常に少ない。)


Save the planet: Swap your steak for bugs and worms, Reuters

The professor at Wageningen University in the Netherlands said insects have more protein than cattle per bite, cost less to raise, consume less water and don't have much of a carbon footprint.
(ワーヘニンゲン大学の教授によると、昆虫はウシよりも、エサあたりに生産できるタンパク質が多く、飼育コストが低く、使用する水も少なく、カーボンフットプリントが小さい。)




そんな研究室から発表された論文を紹介したい。
Oonincx, D.G.A.B, et al., 2010. An Exploration on Greenhouse Gas and Ammonia Production by Insect Species Suitable for Animal or Human Consumption. PLoS ONE 5(12)
(家畜または人間の食用に供される昆虫が産出する温室効果ガスまたはアンモニアの調査)

PLos ONEという影響力を持つ学術誌に掲載されたことで、発表当時は大きな話題となった。

内容はおおまかに言うと、昆虫は温室効果ガスの排出がウシやブタに比べて少なく、昆虫はエコフードだというもの。

…であるはずだった。

試しに昆虫に対してネガティブに表を読み取っていきたい。

table 2.1
1日あたり、体重1kgあたりに放出される二酸化炭素量は、ウシやブタよりも昆虫の方が大きい。


table 3
・コガネムシは、メタンガス排出量がブタよりも大きくなる可能性がある。
・トノサマバッタは、亜酸化窒素排出量がブタより大きくなる可能性がある。
・コガネムシ、トノサマバッタは、二酸化炭素相当量がブタ、ウシよりも大きくなる可能性がある。
(温室効果への寄与度で見たとき、メタン、亜酸化窒素は、それぞれ二酸化炭素の25倍、298倍であることを考慮して換算)
・コオロギ、トノサマバッタは、アンモニア排出量がブタと同等である可能性がある。


table 4
・コガネムシは、体重1kg増加させる際に排出されるメタンガスの量がブタよりも大きい可能性がある。

また、Discussionの部分でも気になった箇所を、ネガティブに引用していこう。

All five species in the current study had a fairly high production of CO2.(5種の昆虫は、けっこう多くの二酸化炭素を排出した。) This might to a large extent be explained by ad libitum feeding during the experiment that has been reported to increase oxygen consumption fivefold [22].Reported CO2 production for inactive, unfed, Tenebrionid adults ranged between 5.4–13.3 g/kg BM/day [27], which is 5–10 times lower than observed for T. molitor in this experiment.(だけど、エサを与えずにじっとさせておいたゴミムシダマシの二酸化炭素排出量は、今回実験に用いたエサ食べ放題にさせたゴミムシダマシのそれの1/10~1/6であった。)

「今回昆虫は二酸化炭素をけっこう排出したけど、もしエサを食わずにじっとしていれば、あんまり二酸化炭素出さないよ。」なんてわざわざ言うあたりに著者の苦しさを感じる。

The CO2 production per kg BM of insect species investigated in this study was higher than for pigs or cattle (Table 3).(体重1kgあたりに排出される二酸化炭素量は、昆虫の方がブタやウシよりも大きかった。)

そして、昆虫の方が二酸化炭素を排出しうることを認めた。



さて、この論文の結論を著者はどのようにまとめているのか。

Conclusions / Significance
This study therefore indicates that insects could serve as a more environmentally friendly alternative for the production of animal protein with respect to GHG and NH3 emissions. The results of this study can be used as basic information to compare the production of insects with conventional livestock by means of a life cycle analysis.
(この研究は、温室効果ガスとアンモニアガス排出という点において、昆虫が他の家畜よりも環境にやさしい動物性タンパク源になり得ることを示唆する結果となった。この研究成果は、昆虫生産と一般的な家畜生産を、life cycle analysisによって比較するための基礎情報となるだろう。)

これを見てわかるように、著者らは「昆虫の方がブタやウシよりも環境にやさしい食料である」とは断言していない
そう、結局昆虫がエコフードであることを示すクリアな結果が出なかったのだ。

その一方で、インタビューなどに対しては自身ありげに昆虫は環境にやさしいということを言いまわっている。
一体その根拠はどこにあるのだろうか…

このオランダの研究者たちは昆虫食の真の価値を見誤っているのように思う
この辺については、また追々このブログで考えていきたい。


※この記事は「昆虫を食べることが環境にやさしくない」ということを主張するものではない。
先の論文を読めばわかるが、昆虫も種によってはウシやブタよりも環境的に優れている部分が多くあることは事実である。

この記事は、「昆虫食=エコ」という短絡的な発想によって、昆虫食の意義を考えることを放棄し、昆虫食の可能性までも制限してしまうことを避けたいがために書いたものである。

<三橋亮太>

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このブログでは、E-ISMのメンバーが昆虫食に関わる色々なことを自由に気軽に書いていきます。

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