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昆虫食の安全管理 その4

昆虫は新鮮なものを食べよう!

今回は、品質管理を怠ったカイコを食べることによって引き起こされる食中毒についてご紹介します。

ネタは以下の記事です。(ファイルは別にアップロードしたもの)
ProMED-mail, 2009-01-29,
food POISONING, HISTAMINE, SILKWORMS - THAILAND (SA KAEO)

以下、抜粋。

おそらく2008年、タイのSa Kaeoで、カイコフライを食べたことによるヒスタミン中毒事件が発生し、118名が中毒症状を訴え、そのうち60名が入院した。

主な症状は、顔のむくみ、嘔吐、目のかすみ、口周りのしびれ、倦怠感、肌の発疹であった。
その後、タイのRong-Klua市場で販売されていたカイコから高濃度のヒスタミン(875mg/kg)が検出された
このカイコは中国から輸入されたものであった。
アメリカでは魚を販売する際、ヒスタミン濃度は50mg/kgまでと規制されている。
このような食用昆虫の汚染はタイでは過去に報告されていなかった。

また、2006年にもベトナムのThanh Hoaで、露天で販売されていたカイコを食べたことによる中毒事件が発生している。
このときは150名以上が頭痛、めまい、目のかすみ、組織の炎症、嘔吐などの症状を訴えた。
当時、カイコに添加された化学保存料が中毒の原因だと考えられていたが、もしかしたらこちらもヒスタミン中毒だったのかもしれない。


さて、ヒスタミン中毒とは何か、ということをもう少し詳しくお話します。

東京都微生物検査情報 第26巻7号より
ヒスタミン食中毒と微生物

以下、抜粋

ヒスタミン食中毒とは?
 ヒスタミン食中毒とは、鮮度が低下したことによりヒスタミンが多く蓄積された魚介類やその加工品を喫食した直後に発生するアレルギー様食中毒で、その多くは集団給食施設や飲食店などで発生している。過去5年間(平成12年から平成16年)に都内で発生したヒスタミンによる食中毒事例を表に示した。都内では毎年数例のヒスタミン食中毒が発生しており、平成16年は2件発生している。ヒスタミン食中毒は原因物質がヒスタミン(化学物質)であるため、わが国における食中毒統計では化学性食中毒に分類されている。しかし実際には、ヒスタミンは魚肉中に多く含まれているアミノ酸の一種である遊離ヒスチジンを原料としてヒスチジン脱炭酸酵素を有する微生物によって生成される。このような生成過程からみると、ヒスタミン食中毒は細菌性食中毒に分類されるべきものとも考えられる。


ヒスタミン中毒は、鮮度が劣化したサバなどの魚介類を食べた際に発生することがある食中毒のようです

その原因は遊離ヒスチジンとのことですが、カイコに遊離ヒスチジンが多く含まれているか否かは現時点では不明です。

ただ、先述の中毒事件の発生の事例もあるので、カイコもサバなどの魚介類と同様に、鮮度が劣化した際にはヒスタミン中毒を起こしうるということは知っておいた方がいいでしょう。

 ヒスタミンは熱で分解されにくいため、加熱処理により菌は死滅したとしても、一度産生、蓄積されたヒスタミンを取り除くことは困難である。また、ヒスタミンは腐敗により産生されるアンモニアなどと違い、外観の変化や悪臭を伴わないため、食品を喫食する前に汚染を感知し回避することは非常に困難である。喫食中に、唇や舌先にピリピリと刺激を感じた場合は速やかに食品を処分することが大切である。
 ヒスタミン食中毒の予防には、食品の保全に注意を払うことが最も大切である。特に夏の時期、買った魚はその日のうちに食べ、仮に残った場合でも冷蔵庫内での長期保存を避け、速やかに冷凍するよう心がけたい。


しかし、注意するにしてもヒスタミンは試食する前に感知することができないようです。

加熱しても一度産生されてしまった毒素は消えないようです。

日本でカイコ中毒が起きたという事例は聞いたことがありませんが、カイコを食べる際には、鮮度が良く、信頼出来る業者から購入したものを選びましょう

<三橋亮太>
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テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

昆虫食の安全管理 その3

※お詫び 2012.5.27
記事内に誤りがありましたので、該当部分を訂正いたしました。
「私が観測した昆虫アレルギーの発症率1/2000(0.05%)は、甲殻類アレルギーの発症率0.28~0.56%とほぼ一致する」という旨の記述がありましたが、発症率の部分で一桁間違っていました。
数字を扱う身として恥ずかしく思うとともに、お詫び申し上げます。



今回も昆虫アレルギーについて考察を深めていきます。

前回、私が観測した範囲内での昆虫アレルギーの発症率は約1/2000(0.05%)であるということをお話しました。
この数値の評価のため、まず一般的な食物アレルギー(特に甲殻類アレルギー)との比較を行いたいと思います。

厚生労働科学研究事業 「食物アレルギー診療の手引き2011」には、以下のような記述があります。

わが国における食物アレルギー有病率調査は諸家の報告により、乳児が約10%、3歳児が約5%、保育所児が5.1%、学童以降が1.3-2.6%程度と考えられ、全年齢を通して、わが国では推定1-2%程度の有病率であると考えられる。欧米では、フランスで3-5%、アメリカで3.5-4%、3歳の6%に既往があるとする報告がある。


食物アレルギーは低年齢児に多く見られ、その後加齢とともに発症件数は減少していく傾向にあるようです。

低年齢児では鶏卵、牛乳、小麦に対するアレルギーを多く発症しますが、加齢と共に耐性を獲得していきます。

私が観測した昆虫食に被験者はすべて7歳以上に当てはまるので、昆虫食アレルギーの発症率は、学童以降の食物アレルギー発症率1.3-2.6%と比較をしていきます。

同じ資料中に、食物アレルギーの発症源食物の内訳が記載されています。

調査対象は、「食物摂食後60分以内に何らかの症状が出現し、かつ医療機関を受診した患者」となっています。

この内訳は年齢によって大きく異なっていることに注意してください。

<全年齢>
図1

<7~19歳>
図2

<20歳~>
図3

ここから、新規食物アレルギーの発症の原因食物は、7~19歳、20歳~ともに甲殻類が第2位となっていることがわかります。

その割合は、7~19歳では17.1%、20歳~では22.2%となっています。

さらに、政府の人口統計を利用して、7歳以上のすべての人における新規アレルギー発症の原因食物のうち甲殻類が占める割合を計算すると、21.5%となります。

以上より、7歳以上で、甲殻類アレルギーを持っている確率は、次のように計算できます。

食物アレルギーの発症率(1.3~2.6%)×原因食物が甲殻類である確率(21.5%)=0.28~0.56%

おお!私が観測した昆虫アレルギーの発症率とほぼ一致しました!
(私の方のデータはすっごく怪しいですが…)


本当に怪しいですが、昆虫アレルギーの発症率(保有率)は、他の食品と同等と言っていいのではないでしょうか。


私が観測した昆虫アレルギーの発症率は、甲殻類アレルギーの発症率を下回りました。

以上から、昆虫は、一般的な食品と比べて、特別にアレルギーを発症しやすいわけではない、ということが言えるのではないでしょうか。

もちろん、私がすべての昆虫料理試食者を追跡できたわけではないので、数値への信頼性は低いです。ご参考程度ということでご理解ください。



もう一つ、参考にしたいデータがあります。

Food Insects Newsletter, July 1995 Edition の記事です。

この記事では、昆虫に対するアレルギーの保有率を調査している実験を紹介しています。

7種の昆虫(リストは文末)から得られた透析抽出物(何のことか不明)を被験者の皮膚に塗布し、アレルギー反応を観察するという実験です。

Bernton and Brown (1967)は、昆虫の透析抽出物を利用して、既知のアレルギーを持つ被験者、持たない被験者に対してアレルギーのパッチテストを行った。その結果、

・既知のアレルギーを持つ被験者230名中、68名(29.6%)にアレルギーの陽性反応が検出された。
・既知のアレルギーを持たない被験者194名中、50名(25.8%)に陽性反応が検出された。

(合計333個の陽性反応が検出された。全テストは(230+194)×7=2968個。つまり、11%のパッチテストで陽性反応が出た。)

以上から、一般人の25%は昆虫に対して何らかのアレルギーを持つ可能性が示唆された


この調査では、非常に多くの人々にアレルギー反応が出ています。

その要因として次の2つが疑わしいと、私は考えています。

 ・昆虫抽出物が非加熱であるため、アレルゲンの活性が高かった。
 ・消化液によるアレルゲンの分解を経ていなかった。

このデータは、生で昆虫を食べた場合にアレルギー反応を発症する可能性を示唆するものとなるかもしれません。

ただし、加熱によってアレルゲンを完全に失活させることはできないようです。

同文献に以下のような記述があります。

先述の7種の昆虫抽出物を100℃で1時間加熱したところ、5種の昆虫でアレルギーの陽性反応が検出された。

ただし、そのアレルギー強度は非加熱時に比べて弱くなっていた。

また、別の実験でゴキブリの透析抽出物を使用して、同様のパッチテストを行った結果、ゴキブリの持つアレルゲンには耐熱性があることが示された。


この傾向は昆虫に特異的なものであるかはわかりませんが、加熱だけでは昆虫アレルギーは防ぐことができないことを示唆するデータとなっています。



<まとめ>

どんな食物に対しても、初めて食べるものに対してはアレルギー発症のリスクが存在する。

昆虫は特別にアレルギーを起こしやすい食物ではない。現時点では、一般食物並みといえる。

また、加熱処理によって100%ではないが、アレルギー発症のリスクを多少軽減することができる。

心配な人は、食べる前に皮膚テストを行うことが好ましい。


<パッチテストに使用した昆虫7種のリスト>
(アレルギー反応がpositiveな順)
 1. ニシメマダラメイガ Indianmeal moth, Plodia in terpunctella
 2. コクヌストモドキ幼虫 red flour beetle larvae, Tribolium castaneum 
 3. コクヌストモドキ成虫 red flour beetle adults, Tribolium castaneum 
 4. ココクゾウムシ rice weevil, Sitophilus oryzae 
 5. キイロショウジョウバエ fruit fly, Drosophila melanogaster 
 6. ヒラタコクヌストモドキ confused flour beetle, Tribolium confusum 
 7. ノコギリヒラタムシ sawtoothed grain beetle, Oryzaephilus surinamensis 
 8. コナナガシンクイムシ lesser grain borer, Rhyzopertha dominica 

<三橋亮太>

テーマ : 自然科学
ジャンル : 学問・文化・芸術

昆虫食の安全管理 その2

さて、実際のところ昆虫アレルギーはどのくらいの頻度で起きているのでしょうか?

私(三橋)が観測した中では、1/2000程度です。


私は大学祭で毎年、昆虫料理の試食会を行なっています。

そこでは、主にカイコ蛹を使用した料理を無料で提供し、昆虫食に対する意識調査を行なっています。

非常に人気のある企画で、2年間でのべ900名以上の方が昆虫を実際に食べました。

試食者の大半は初めて昆虫食に挑戦する人でした。

そのうち、20代の男性1名がアレルギーを発症しました。

彼は過去に市販のカイコ蛹粉末を使用した料理を食べた経験があり、その時は何の異常も見られませんでした。

しかし、私の試食会に参加した時は2日間ほぼ睡眠を取らず、極度の疲労が蓄積した状態だったとのことでした。

この事例から、昆虫アレルギーを持っていなくても、疲労時にはアレルギーを発症する可能性があることがわかりました。

さて、そのメカニズムは何なのでしょうか。


仮性アレルゲンと呼ばれる物質群があります。

これは、食物に一般的に含まれるヒスタミンやコリン、セロトニンなどの食物アレルギーを引き起こしやすい性質を持つ物質群のことです。

この仮性アレルゲンを多く含む食物を、体調不良時や他のアレルギーを発症している時に食べると、食物アレルギーを発症することがあります。

昆虫にはこの仮性アレルゲンが多く含まれているのではないかと私は考えています。(根拠となるデータは持っていません)

体調不良時には昆虫に初挑戦しないことをオススメします


彼がアレルギーを発症した要因はもうひとつ考えられます。

食べた昆虫の加工度です。

彼が初めてカイコを食べたのは市販のカイコ蛹粉末(主に釣りエサ用)であり、高度に加熱、乾燥されています。

私の試食会では「新鮮なカイコ蛹の天ぷら」を提供していました。

天ぷらは高温でサクッと揚げたものであり、じっくりと長時間加熱したものではありません。

その結果、天ぷらではカイコ蛹が持つアレルゲンの活性が低下しなかった、ということが考えられます。

アレルゲンは加熱により、程度の差はありますが、活性が低下します。

初めての昆虫食は、じっくりと長時間加熱したものをオススメします


昆虫料理の試食会を行なっているのは私だけではありません。

e-ismメンバーで、昆虫料理研究家の内山昭一氏は、10年前から毎月、昆虫料理の試食会を行なっています。

毎回20名前後の人が集まるわけですから、20名×12ヶ月×10年=2400名の人々が昆虫料理にチャレンジしていることになります。

実際はリピーターも多いので、試食会で初めて昆虫を食べた人は、その半分程度の1200名だとしましょう。

そして内山氏曰く、それだけ多くの人々が昆虫食に初挑戦したにも関わらず、アレルギーを発症した人は一人もいないとのことでした。

以上から、私の試食会と内山氏の試食会で昆虫食に初挑戦した人を合計すると、約2000名となります。

アレルギー発症者は1名ですので、現時点ではアレルギー発症率は1/2000となります。


次回はこの数字が大きいのかどうかについて考えていきます。

<三橋亮太>

昆虫食の安全管理 その1

昆虫を食べるときに注意したいものあります。

それは菌でも寄生虫でも昆虫の持つ毒でもありません。

アレルギーです。


菌や寄生虫は加熱調理によりほぼ100%殺すことができますし、昆虫と人間に共通して感染して悪さをする菌や寄生虫は非常に限られています。(もちろんウイルスも)

また、スズメバチやムカデの毒はタンパク毒であるため、加熱によって変性し、無毒化します。


しかし、アレルギーを引き起こすアレルゲンには、無毒化出来ないものが多くあります。

甲殻類(エビ・カニなど)アレルギーを持つ人は、昆虫を食べない方が良いと一般的に考えられています。

昆虫は甲殻類と同じキチンを主成分とする外骨格を持つ無脊椎動物であり、甲殻類に非常に近縁な生物だからです。

そして、この両者はともに「アレルゲン性トロポミオシン」というアレルゲンを持っている可能性が高いです。

トロポミオシンとはすべての動物が筋肉中に持っているタンパク質であり、その中でも甲殻類や昆虫類が持つトロポミオシンはアレルギーを引き起こしやすいと考えられています。

甲殻類アレルギーの人にとっては、エビやカニに火を通したところで程度を抑えることはできても、発症そのものを避けることは難しいですよね。

昆虫にも同じことが言えると思います。


また、ハウスダストによるアレルギーは、空気中に舞うダニの死骸やフンなどを吸入してしまうことが大きな要因だと考えられています。

そして、このアレルギーは、ダニが持つアレルゲン性トロポミオシンによって引き起こされるものだと考えられています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002923687

よって、ハウスダストやダニのアレルギーを持つ人は、昆虫を食べるときにも同様のアレルギーが発症する可能性があります。


ご自身の持つアレルギーには十分注意して、昆虫食をお楽しみください。

次回も昆虫食の安全管理について考えていきます。

<三橋亮太>
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