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昆虫食が嫌われる理由とは?-心理学から考える。

昆虫食が嫌われる主な理由は、その人が昆虫を食べる文化を持っていないからだと考えている。

この仮説を支持する第一の根拠は、P. Rozin (1987) にある以下の記述だ。

If one were interested in determing as much as possible about an adult's food preferences and could only ask him one question, the question should undoubtedly be: "What is your culture or ethnic group?" (Rozin, 1987)
もしあなたがある成人の食の好みを知りたいとして、彼への質問が一つだけしか許されないとしたら、最適な質問は間違いなくこれだろう。「あなたが属する文化もしくは民族は何ですか?」

つまり、人間の食の好みは、その人が属する文化で大部分が決まってしまうということだ。
そして、こう続く。

But what is responsible for the substantial differences in food preferences and attitudes among members of the same culture? Surprisingly, we do not know.
しかし、同じ文化に属する個人の間にある、食の好みの違いの主な要因は何なのだろうか?驚くべきことに、我々にはわからない。

Sex and biological factors such as differences in taste sensitivity acount for very little variance.(Rozin, 1987)
性別や、味への感受性などの生物学的な要因では、食の好みの違いのごく一部しか説明できない。

文化以外の要因は、食の好みへあまり影響しないということだ。
(P. Rozin氏はペンシルベニア大の教授で、著名な心理学者である。)

第二の根拠は、実際に世界には好んで昆虫を食べている地域も多く存在していることだ。
これは昆虫食を嫌う文化が存在する一方で、昆虫食を好む文化も確かに存在していることを示している。

例えば、野中健一著『虫食む人々の暮らし』などを読めば、世界には(日本も含めて)本当に好き好んで虫を食べる人々が多く存在していることがよく理解できるだろう。

虫食む人々の暮らし (NHKブックス)虫食む人々の暮らし (NHKブックス)
(2007/08)
野中 健一

商品詳細を見る

(南アフリカ共和国でのモパニムシ売りの露天を回って気づいたことは、)
ボツワナ産(のモパニムシ)は質がよい分、値段も高い。親近の少ないものは、ジンバブエ産を仕入れて売ることになる。先ほど述べたザニーんの女性は、仕入れたジンバブエ産のモパニムシを再度加工しているのだった。安く仕入れて、自分で美味しくなるよう加工し直しているのだ。

ここから、例えば南アフリカ共和国ではモパニムシが市場で売られるほどに人々に受け入れられていて、他国から輸入するほどの需要があり、さらには産地別にグレード分けがされるほどモパニムシは嗜好性が高い食材であることがわかる。

第三の根拠は、昆虫には食べる価値がある食材だということだ。
もし、昆虫が不味くて栄養もない食物であれば、世界のどこにも昆虫食文化が生まれることはないだろう。
例えば砂は食べる価値が無いので、世界のどこでもそれを食べる文化は存在しない。

その一方で、昆虫は栄養に富み(後日、詳しく述べる)、味も悪くない
多くの昆虫は一般的な家畜の肉と同等の栄養価を持ち、蜂の子などはうなぎの白焼きと非常に似た美味しい味がすることが科学的に示されている。(内山昭一著『昆虫食入門』より)
私も30種程度の昆虫を試食してきたが、実際に昆虫はまずくない。特にカミキリムシは濃厚なバターの風味がして本当に美味しかった。

以上から、昆虫食が嫌われるのは、ただ単に昆虫を食べる文化が無いからだという仮説がある程度の説得力を持っていることを理解してもらえると思う。


昆虫食が嫌われる理由はそういう食文化が無いからだという主張を補強する事例として、以下のような記述もある。(Rozin, 1987)

But studies on parent-child resemblance in food preferences (within a more or less homogeneous culture) have found either no relation or a very small one (correlations usually below 0.3) between children's preferences and those of their parents.
同じ文化に属する親-子の間には、食の好みについての相関性が無いか、もしくは非常に低い(相関係数は0.3以下)ことが発見されている。

Although family resemblance can be caused by genetic factors or experience, the meager evidence we have implicates experience as the more important factor. For example, mother-father correlations in preferences or attitudes are equal to or higher than parent-child correlations, and heritabilities for taste preferences are very low.
家族内での食の好みの類似性は遺伝的要因か経験によるものであるが、証拠としては弱いが、経験の方がより重要な要因であることを示唆するデータがある。たとえば、食の好みの相関性について、母-父の相関性は、親-子の相関性と同程度かちょっと高い程度である。また、味の好みの遺伝率が非常に低い。

つまり、食の好みは遺伝的要因で決定されるものではなく、むしろ経験や食事を共にする時間の長さ、育った文化といった環境的要因によって作られるものである、ということだ。

ただし、味覚器のセンサー機能については、生活習慣などの環境の影響をほとんど受けないことに注意したい。

塩辛いものが大好きな人、甘いものが大好きな人の間でも、味覚器の機能にはあまり差がない。うまみ物質が豊富に入っている食物を小さいときから食べている日本人と、欧米人のうま味に対する感度を比較してみても、特に差は認められない。塩辛いものを食べ続けている人と、薄味のものを食べ続けている人の間にも、食塩に対する味覚感度にはあまり差がない。長い間の食習慣の違いがあっても、味覚器のセンサー機能にはあまり差がない。(栗原, 1999)

文化などの環境的要因によって形成されるものは食の好みであって、味覚器の感受性ではない


しかし、遺伝的に要因によって形成される食の好みも確かに存在する。
たとえば乳糖不耐症によるものだ。
歴史的に大量の乳製品を摂取してこなかった民族では、一般的に腸内でのラクターゼの分泌が少なく、それゆえに乳糖不耐症の人々は牛乳などを摂取すると乳糖を消化することができず、下痢などの体調不良を起こす。
北欧人はほとんど乳糖不耐症ではないことに対して、日本人を含むアジア人は95%もの人が乳糖不耐症だとか。(http://www.biv-decodeme.jp/health/conditions-covered/lactose-intolerance.html

ある食品を食べた後に体調が悪くなったことを経験した場合、次回も同じような体調不良を引き起こすことを予期してしまうため、そのような食品はちょっと嫌いになってしまう。(Rozin, 1987)
よって以上のような状況下では、遺伝的な要因によって食の好みが形成されることになる。
しかし、食の好みが遺伝的な要因で決定されることを示す研究報告はまだまだ少なく、この事例は例外的であるといえるだろう。
また、乳糖のような遺伝的な要因によって摂食を拒絶される物質は、昆虫では発見されていない。(2012.6.11追記)
やはり、食の好みは主に文化によって形成されるという仮説がいちばんわかりやすいと思う。


さて、我々は昆虫食文化が何故無いのか、ということについては今回、何も言及していない。
次回は「何故、昆虫食文化は育たなかったのか?」ということについて考えていく予定だ。


引用文献
P. Rozin (1987)  Psycological Perspectives on Food Preferences and Avoidance. In Food And Evolution: Toward a Theory of Human Food Habits (M. Harris and E. B. Ross), pp.181-205.
栗原堅三(1999)  味覚の仕組み, 味とにおいの分子認識 (日本化学会編)pp.3-17
野中健一(2007) 虫食む人々の暮らし
内山昭一(2012) 昆虫食入門

<三橋亮太>
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テーマ : 科学・医療・心理
ジャンル : 学問・文化・芸術

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